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「お前、馬鹿だろう」 これは冗談でも何でもない。 本心だ。心からの。
麻衣は言いながらソファテーブルにティーカップを荒々しく置く。茶色の液体が揺れ、ソーサーの中に少しだけ零れた。 「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」 非難をこめて睨む。 「そういう考え方自体が失礼なの! ここは日本! 直球勝負の欧米じゃないんだから、変化球で攻めてよね」 全く意味不明だ。 馬鹿と言ったことを否定しないということは、自分を馬鹿だと認めているのか? それとも、 「お前、攻められたいのか?」 口角を上げ、自身の容姿を最大限に活用して笑えば、案の定、麻衣の顔が耳の端まで真っ赤になった。 「ちっがーう! ばっかじゃないの!?」 慌てたように声を張り上げる彼女は、中々に面白い。 「変化球はどうした、変化球は」 「ナルはいいのよ!変化球じゃ通じないから!」 「おま……」 「ああ 反論しようとしたら、麻衣が大声を上げて窓の外を指差す。かと思えば麻衣は窓に駆け寄り、張り付いた。 非常に騒々しい。 呆れる暇もなく、つられて窓の外を見遣れば、麻衣の行動の理由が判った。 「はじまっちゃったじゃん!」 「人のせいみたいに言うな」 「あんたのせいでしょ!」 そう、窓の外には高く打ち上げられた火薬……もとい花火。 「今日は諦めるんだな」 「冗談! 今から行っても間に合うもん」 「ベランダからでも十分」 「ベランダじゃ意味ない!」 「何故? 近くに行くより遠くから見たほうが良く見えるだろう」 「そういう問題じゃない」 「それなら、どういう問題だ」 麻衣はようやく窓からはがれて、こちらを振り返る。そして腰に手を当てて高らかに言った。
「……何をするんだ」 「かき氷とかリンゴ飴とかイカ焼きとかやきそばとかたこ焼きとか食べたい!」 食い気のみか。 「本当に馬鹿だな」 「なにおー!」 「そんなもの、作ればいいだろう」 「たこ焼き機持ってない!」 「買え」 「もったいない!」 「それならば食べるな」 「横暴!」 「どういたしまして」 「褒めてない!」 麻衣はキッとこちらを睨むと、再び窓にしがみついた。必死にへばりついている後姿には、もう溜め息を吐くしかない。 「 「だから、みんな用事があるんだって!」 「友達は?」 「友達はみんな彼氏と行くんだってさ!」 「それなら諦めたら?」 「なんでさ! ナルが一緒に行ってくれればいいじゃない」 「却下」 「だからひとりで行くってば!」 コイツは正真正銘の馬鹿だ。 僕が保障する。 「それも却下」 「むー! なんでダメなのよ!」 「それぐらい自分の足りない頭を必死に使って考えろ」 「なにおー!」と一際喧しい声を張り上げると、彼女は非常に面白くないことを言った。
近年、忍耐力が強くなったように思われる我慢も限界だ。 「麻衣」 「な、なによ」 後退った麻衣の腕を取った。 「ちょっと来い」 「えっ!ヤダ!」 「来い」 行くのをやめる気がないのなら、諦めさせてやる。 「えっ! ちょっ、ま……っ!」
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