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現在、このわりと狭い部屋では二人の人間が作業しているのだけれど、それぞれがそれぞれの作業をこなすだけで会話は全くない。それもそのはず、隣にいらっしゃるのは仕事に過度に厳しく、仕事が第一、仕事が生き甲斐というなんとも嫌な三拍子が揃い、仕事こそが人生とでも言い出しそうなこの事務所の所長様だからだ。仕事人としては理想的かもしれないが、もし、万が一、億が一、家庭人になるとしたら、最悪最低、夫にしたくないナンバーワンをぶっちぎることだろう。 しかも、その「仕事」の内容が超心理学研究という特殊な職業であるからたちが悪い。 超心理学を研究する。ぶっちゃけて言ってしまえばオカルトマニアだ。 もっとも、こんなことを隣にいる人物に知られようものなら、悪口雑言罵詈雑言。耳を塞ぎたくなるほどの毒が吐き出されるだろう。
とにかく、考えれば考えるほど短所は出て来る。
ナル自身は短所を短所と思っていないから、余計に性質が悪いのだ。確かに、短くはない彼との付き合いで、ナルの短所もナルの特徴の一部としか見えなくなったような気はするけども。感情豊かで始終柔和なナルなんて想像するだけで気持ちが悪い。
きちんとみんなのことを考えていてそれなりに気も遣っている。厳しいことも言うけど、それはいつも正論だ。偉そうな態度に見合うだけの結果もきちんと出す。実は優しいし、いつもの無口さも落ち込んでいるときには有難かったりもする。 いつも真摯に研究に取り組んでいる姿には、実は密かに尊敬している。
彼にはいいところも、ある。
ナルは麻衣の視線に気付いているのか気付いていないのか。どちらにせよ、気にしていないのだろう、手元の資料への集中は途切れない。 麻衣は、その端整な横顔に、目一杯微笑みかける。 いつもの彼女のふわりとした笑みでなく、これから戦うべき相手を前にしたような不敵な笑みを。 「覚悟してて」 これまた不敵な口調でそう言うと、やっとナルが顔を上げた。そして、麻衣の方を振り返ったときには、麻衣はすでに応接室へと続く扉へと颯爽と歩いていた。 ナルが疑問を口にする間もなく扉が閉じられる。 「・・・・・・なんだ?」 あとには、疑問符ばかりが浮かんでいる博士様が残るばかり。
こんな片思い。
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